マッチのマッチ Good Luck 印/ インド、(36 x 55 mm)
横溝健志
マッチのラベルは、公共のキャンペーンに利用される場合は別にして、人目を引き購買欲に訴えたいという基本的な役割がある。人目を引く工夫は千差万別で、親しまれる風物や故事、吉兆、奇抜な図柄など着想の豊さが収集の醍醐味である。マッチの図柄にマッチを描くのはいささか安直な気もするが、マッチへの愛着が豊な表現を引き出し興味深いラベルを多く見かける。
火遊び防止
チェコスロバキアやソ連邦では、子供にマナーを説く広報にマッチが一役買っている。シリーズの一枚として、火遊びの危険性を喚起するものが含まれる。
左から:◾️“小さなおもちゃ、大きな結果”/ チェコスロバキア(48×34)◾️“マッチは子どもの手の届かない場所に保管してください” / カウナス・リトアニア(48×34) ◾️“マッチはオモチャではありません”/リベレツ・チェコスロバキア(50×35) ◾️“ルールを守ろう!!ここでは何が危険ですか?”/チェコスロバキア(50×35) ◾️“子供たちからマッチを仕舞ってください”1958年/ソ連(36×49)
山火事注意
山火事は入山者の不注意が原因で起こる場合が少なくない。山中でタバコや焚き火などマッチを使う際にはくれぐれも用心するようにというメッセージは明快である。
左から◾️“森林火災防止”/チェコスロバキア (50×30)◾️“火災から 森を守ろう”/チェコスロバキア(42×31)◾️“火災から森を守ろう”1957/ソ連(48×36) ◾️“火災の前に森を守れ”/ポーランド(50×34)◾️“火を起こさないでください”1957/ソ連(48×34)
タバコはマッチで
タバコとマッチには、単に火をつける道具以上の関係がある。手で風を避けて一人タバコに火をつける場合や、タバコをくわえただけで火が差し出されたり、路上で他人に火を借りるといった親密さや主従の関係が生まれるが、マッチは風が苦手である。
左から◾️人形印、第一燐寸工業株式会社/日本(48×34) ◾️ライフルマン印・安全マッチ/スウェーデン(35×56)◾️日本(37×50)◾️バルカン印/スウェーデン(37×37)
マッチを担ぐ
マッチを一本大事に抱えた図案は、マッチへの讃歌のように思える。
上:左から◾️中国のマッチ貿易商社向け/1893(明治26)年、大阪/日本 (86×43) 商標登録者:近藤力蔵◾️TERZA印”信頼できるスイスの木製品” / スイス(35×54) ◾️綱干燐寸合資会社/1915(大正4)年、神戸/日本(37×50)◾️スウェーデン(48×34) 下:左から◾️ペンギン印、日本燐寸株式会社/日本 (36×55)/ ◾️小人燐寸印/大正期、日本 (36×55)
子供とマッチ
日本ではマッチの製造が始まり、一般にはまだ珍しかった頃、マッチの効果を素朴にうたうラベルが見られる。マッチを子供に擦らせたラベルには危険物の認識はない。子供の服装から時代が偲ばれる。明治初期(1868〜)の日本の幼児、子供、学生の服装が伺える。
◾️左)東榮社、東京/日本 (46×56)◾️中)日本(37×56)◾️右)浅井新榮社/1901(明治34)年、名古屋/ 日本(37×56)
猿とマッチ
中国では猿は昇進を意味する吉兆のシンボルである。したがって日本の中国向けの輸出マッチに猿を描いたラベルを多く見かける。この4枚は昇進とは無縁のユーモラスな図柄である。
左から(時計回り)◾️玩猴印/1915(大正4)年、兵庫/日本(56×37) 商標登録者:岩崎鶴蔵◾️ 清隆社/1900(明治33)年、兵庫/日本(37×56) 商標登録者:前田喜代治◾️ “I want my match box”/1906(明治39)、M.A.レボーンRaeburn、神戸/日本(37×56)◾️1912(大正1)年、神戸/日本(37×56) 商標登録者:天神伊三
マッチの使い方
マッチの正しい使い方を説明したマッチである。
左から(時計回り)◾️“図の様にしてはいけない。強風の時は手で覆うこと” / スウェーデン(45×27) ◾️ 2) “硫黄マッチ – 硫黄の部分が燃えて炎が大きくなってから使うこと”/日本燐寸統制会社、1942(昭和17)年(第二次世界大戦下で統制が始まりマッチ会社は一つに統合された)、 日本(37×54)◾️“風のある屋外でタバコを吸う際に、マッチの軸を折って2本にし、火の出る方を風上にして擦るとよい” / 日本(35×53) ◾️ マッチのすり方の良い例と悪い例の図解 / アフガニスタン(35×51)
マッチを見つめる
マッチの炎をつくづくと見入ることもある。理由は様々だ。
左から(時計回り)◾️SILVER RAINS印/アソカ燐寸会社、 サツール・ インド(55×35)◾️JOKER印/ジェムマッチ会社、シバカシ・インド(35×52) ◾️”すぐれた非スパーク燐寸”、KABOUTER印(カブターはオランダの民間伝承に登場する小人)/オランダ (34×50)◾️”この箱にはマッチ棒が130本入っており非常に経済的です”/1895(明治28)年、神戸/日本(35×56) 商標登録者:石丸善三郎
マッチの製造工程
1950〜60年代、社会主義国家のチェコスロバキア共和国はマッチラベルで公共的キャンペーンを盛んに行った。健康に留意とか民族文化の紹介など様々なシリーズが発行されている。いずれも洗練されたデザインがチェコスロバキアのマッチを有名にしている。マッチの製造工程を説明したソロ社の10枚組セット。
上:左から◾️軸木になる材木を切断、樹皮を剥ぐ◾️材木を軸の厚さに剥く◾️軸木の太さに刻む◾️軸の先端を頭薬に浸す◾️外箱を作る 下:左から◾️中箱を作る◾️ラベルを貼る◾️箱に詰める◾️側薬塗布◾️梱包
マッチのギャグセンス
マッチは束の間手元にあってやがて捨てられる中身の知れた小さな箱である。ラベルには人目を引く工夫が求められるが、なかにはギャグで迫るものがある。空を飛ぶマッチもあれば、馬の真似をするマッチやマッチ箱のマッチもある。人の背でタバコを吸う紳士の図柄は滑稽ではあるが、近代化途上の日本の世界認識の一端のようで問題である。いずれにしても、このように自由奔放が許されてマッチラベルの世界を豊かにしているのだろう。
左から▪️マッチ馬印、昇栄燐寸合資会社/1929(昭和4)年、神戸/日本(70×92)▪️日本燐寸製造株式会社・輸出用/1915(大正4)年、神戸/日本(64×90)▪️中国向輸出用/1912(大正1)年、神戸/日本(36×55)) 商標登録者:黒原好二▪️1887(明治20)年/日本(55×36)
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